私好みの新刊 202304

『旅するタネの図鑑』 多田多恵子/文・写真   文一総合出版

  植物の種子散布について書かれた本は他にもあるが、種子散布について総合

的にまとまった図鑑が出た。著者は植物についてわかりやすい本をたくさん出

している多田多恵子さん、〈身近なしぜん再発見!〉シリーズとして出版された。

植物の種子散布の方法として意外とたくさんあることに気付かされる。 初めに

「花から実へ」の解説が少しあり、「旅するタネの工夫」も少しまと

められている。

 いよいよ本文に入るが、各ページに解説コーナーがあってちょっとした解説

がある。最初に出てくるのはおなじみ〈翼をもつタネ〉。ユリノキやメグスリ

ノキなどもある。ここでの解説コーナーには、回転しながら落ちていくタネの

イラストが動線を交えて描かれている。こどもにも分かりよい図である。「綿毛

をもつタネ」も様々ある。おじなみのタネもあるが20種ほど紹介されている。

コラム欄に綿毛の顕微鏡写真が添えられている。あの綿毛(種髪)の中は中空だ。

なるほど遠くまで飛ぶ仕組みになっていることに関心。「風に散る小さなタネ」

にあるコラムでは、あのランのタネは「キノコの菌糸からから栄養をもらって

芽を出す」とか。土の養分が取れないほどタネが固いのか。「漂流するタネ」で

は、「一夜限りの美しい花が穂に垂れて咲く」珍しい実の写真だ。続いてメヒル

ギやヒシのタネも紹介されている。メヒルギは屋久島などで樹木から実が垂れ

下がっている姿を見るが、「ヒルぎ類は樹上でタネが発芽する〈胎生種子〉のし

くみを進化させました。」とある。不思議なタネもあるものだ。ヒシの実はよく

見かけるがあのとげがある大きい〈実〉はタネなのか。「ひっつき虫」にある各

タネはふだんの野原では〈厄介者〉だが、あの棘の仕組みからファスナーの発明

につながったとか。おもしろい。ひっつく仕組みもいくつかるようだ。中にはセ

ンダングサなど〈逆さトゲ〉がついているタネもある。オオバコのタネは「水に

ぬれるとゼリー状になる」とか。各タネにはうまい仕組みが備わっている。まだまだ

タネには不思議な仕組みはあるがこのへんで・・。    202210 2,200

 

『はじめての動物地理学』(岩波ジュニスタ) 増田隆一著  岩波書店円

  岩波書店が中学生向けの本を出版し出した。タイトルは「動物地理学」。あまり聞きな

れない研究領域である。そんな領域にも関心を持ってもらいたいという趣向の本だ。哺

乳動物などは地球上の限られた場所を生息領域としているが、それはなぜなのかを研究

領域にしている。日本でも、ヒグマやシマリスは北海道にしかいない。ツキノワグマや

二ホンリスは本州にのみ生息する。生育領域を分けているのだ。また、日本にだけしか

いない日本固有種という動物もいる。なぜか。

著者はまず大陸の移動をあげる。ウェゲナーが唱えたように大陸移動が動物の棲み家

も分断した。ちょうど爬虫類が出現した時期に各大陸は分裂していった。そこで、各動

物は環境に応じて進化していく。オーストラリア大陸には有袋類が進化した。これは植

物にもあてはまることで、アメリカ大陸があったかげで私たちの食生活はうんと幅広く

なっている。

 あと一つ動物進化のカギを握るのは地球規模で起きる環境変化である。知られている

ように、地球は過去何度か寒期と暖期とを繰り返してきた。新生代になって寒期を迎え

その中で今は比較的温暖な間氷期を迎えている。それに応じて各動物は海峡部分に出来

た〈陸橋〉を通って移動した経緯がある。その時、多くの動物たちが各地に移動したも

ののまた海水面が下がって大陸とのつながりが分断された所も多い。人類もヒグマたち

もそうした気候変動の変化で違う道筋を渡って来た。しかし、その分断のおかげで各地

に適応した種が進化していく結果となった。馬も進化をくりかえしクジラはまた海に戻

っていったという。後半にはそうした各動物の進化に人間が影響を与えるようになり、

家畜の誕生や外来種の問題、都市動物の存在など問題化が顕著になってきたことが取り

上げている。動物地理学の成果をもとに人間活動の在り方が問われている。

                               2022101,450

 

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